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那覇地方裁判所 昭和48年(ワ)8号 判決

原告 宮平勝 外七名

被告 国

訴訟代理人 野崎悦宏 外五名

主文

原告らの請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

一  当事者の申立

1  原告

原告らが雇用契約上の地位を有することを確認する。

被告は、別表〈省略〉「原告」欄記載の各原告に対し、それぞれ同表「未払賃金額」欄記載の各金員および昭和四八年二月以降毎月一〇日限り同表「賃金」欄記載の各金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

第二項につき仮執行の宣言。

2  被告

主文と同旨。

二  当事者の主張

1  請求原因

(一)  原告は、次表「雇用年月日」欄記載の日に、在沖米軍の割当資金による直接雇用従業員(以下「直接雇用従業員」という。)としてアメリカ合衆国政府に雇用され、同表「職務」欄記載の職務に従事していた。

原告     雇用年月日     職務

宮平勝   昭和二七年六月一四日 船具修理工

比嘉景盛  同年八月一日     右同

古波津幸一 同三〇年九月二一日  右同

親泊良次  同三六年九月六日   右同

当真嗣孝  同二九年八月二四日  電気工

吉田英丞  同三四年三月一二日  右同

久場興一  同三四年三月一六日  右同

津嘉山光明 同三五年一〇月二五日 板金工

(二)  被告は、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(以下「地位協定」という。)一二条四項所定の現地の労務に対する合衆国軍隊の需要の充足を援助するため、アメリカ合衆国政府との間に、基本労務契約(契約番号DA-九二-五五七-FEC-二八、〇〇〇号。以下「基本労務契約」という。)を締結し、この基本労務契約に基づき、右の援助を行なつているものであつて、右の援助にかかる在日米軍基地従業員の法的雇用主の地位にある。

ところで、沖縄の復帰に伴い、沖縄にも地位協定が適用されることとなるため、被告とアメリカ合衆国政府は、直接雇用従業員を基本労務契約のもとで雇用することに合意し、昭和四七年五月一三日、基本労務契約に対する附属協定(以下「改定二四一号協定」という。)を締結した。被告は、沖縄の復帰とともに、改定二四一号協定に基づき、直接雇用従業員につき雇用主たる地位を包括的に承継した。

したがつて、原告らと被告との間には、昭和四七年五月一五日以降、被告を法律上の雇用主とする雇用関係が存在するにいたつたというべきである。

(三)  前記(1) および(二)から明らかなように、原告らと被告との間には雇傭関係が存在するというべきところ、被告は、これを争い、原告らに対し賃金を支払わない。

原告らの平均賃金月額は、別表〈省略〉「賃金」欄記載のとおりであり、昭和四七年五月一五日以降支給日の到来した同年一二月末日までの未払い賃金総額は、同表「未払賃金額」欄記載のとおりである。

(四) よつて、原告らは、原告らが雇用契約上の地位を有することの確認を求め、さらに、被告に対し、前記(三)の賃金支払いを求める。

2  答弁

(一)  請求原因(一)記載の事実は認める。同(二)記載の事実は認めるが、被告が直接雇用従業員につき雇用主たる地位を包括的に承継し、原告らと被告との間に雇用関係が存在するに至つた旨の主張は、これを争う。同(三)記載の事実中、被告が雇用関係を否定し賃金を支払わないことは認め、その余の事実は知らない。

(二)  改定二四一号協定は、直接雇用従業員について、被告が包括的に雇用主たる地位を承継することを定めるものではなく、合衆国軍隊が、沖縄において、その復帰後も、直接雇用従業員の労務の提供を希望し、かつ、被告に対し、その旨の申出のあつた場合は、被告において当該直接雇用従業員との間に雇用契約を締結し、現地の労務に対する合衆国軍隊の需要の充足を援助する旨を定めたものである。

合衆国軍隊は、原告らについて右の申出をせず、したがつて、被告は、原告らとの間に雇用契約を締結しているのであるから、被告原告らとの間に雇用関係が存在しないことは、明らかである。

三  証拠〈省略〉

理由

一  原告らが、原告ら主張のとおり、直接雇用従業員として雇用され、それぞれの職務に従事していたことは、当事者間に争いがない。

よつて、以下、被告が沖縄の復帰に伴い、直接雇用従業員につき包括的に雇用主たる地位を承継したかどうかについて判断する。

1  被告が、地位協定一二条四項所定の労務に対する合衆国軍隊の需要の充足を援助するため、アメリカ合衆国政府との間に、基本労務契約を締結し、この契約に基づき、右の援助を行つていること、被告が、右の援助にかかる在日米軍基地従業員の法的雇用主の地位にあることおよび沖縄の復帰に伴い、沖縄にも地位協定が適用されることとなるため、被告とアメリカ合衆国政府が、直接雇用従業員を基本労務契約のもとで雇用することに合意し、昭和四七年五月一三日、改定二四一号協定を締結したことは、いずれも当事者間に争いがない。

原告らは、右の改定二四一号協定を根拠に、被告が直接雇用従業員につき雇用主たる地位を包括的に承継した旨主張するが、〈証拠省略〉によつて、原告らの右の主張を肯定するに足りる事実を認めることはできない。

かえつて、〈証拠省略〉によれば、改定二四一号協定は、昭和四七年五月一四日現在において直接雇用従業員であり、同月一五日に、右協定のもとの従業員となる者を移行従業員と定義し、移行従業員の雇用手続については、原則として基本労務契約第一章B節の各規定の適用を認めたうえ、同節中雇用前の応募者紹介、保安調査および健康診断に関する規定の適用を排除していることが認められ、また、〈証拠省略〉によれば、基本労務契約は、その第一章B節に従業員の雇用手続を定め、従業員の提供を求める労務の要求については、指名要求方式(差し向けるべき従業員を指名する方式)と応募者紹介方式(雇用可能な者の中から適格者を差し向ける方式)を定めていることが認められるのであつて、右の事実関係のもとにおいては、改定二四一号協定は、直接雇用従業員について指名要求方式による雇用手続を予定していたものというべきである。

なお、〈証拠省略〉によれば、在沖米軍は、沖縄の復帰前に、直接雇用従業員に対し、間接雇用制度への移行と題する書簡を発送し、直接雇用従業員としての身分が昭和四七年五月一四日の業務終了とともに終る旨、および同月一五日付で間接雇用されるとの申出を日本国政府から受けることになる旨を通知したことおよび日本国政府と琉球政府は、同じく沖縄の復帰前に、直接雇用従業員に対し、間接雇用への切替について(意向照会)と題する書面を発送し、米軍との間の現在の雇用関係が沖縄の復帰の日の前日をもつて終了し、その後米軍に勤務するには、日本国政府との間に改めて雇用関係を結ぶ必要がある旨を通知するとともに、日本国政府による雇用について諾否の回答を求めたことが認められるのであつて、右の事実は、前段の認定判断を裏付けるに足りるものというべきである。

2  前記1から明らかなように、被告とアメリカ合衆国政府との間に、直接雇用従業員の雇用主たる地位を譲渡する旨の合意があつたことを肯認することはできず、他に、右の雇用主たる地位の包括的な承継を肯定するに足りる法的根拠を見出すことはできない。

ちなみに、沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律三二条は、「この法律施行の際琉球政府の一般職に属する常勤の職員又は特別職のうち政令で定めうるものに属する職員として在職する者は、政令で定めることにより、国、沖縄県、沖縄県の区域内の市町村又は政令で定める公共的団体の職員となる。」旨規定し、琉球政府の職員であつた者の身分を保障している。しかし、右法条の規定は、いわゆる特別権力関係に立つ琉球政府の職員に関するものであり、しかも、琉球政府と国または沖縄県等との関係は、包括承継に準ずるものと解される点に鑑み、沖縄の復帰時における直接雇用従業員の取扱いを、琉球政府の職員の場合と同列に論ずることはできない。

二  以上によつて明らかなように、被告が直接雇用従業員につき雇用主たる地位を包括的に承継したものと認めることはできないから、これを前提とする原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当として棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条および九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川嵜義徳 比嘉正幸 喜如嘉貢)

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